空集合が怖い

集合と位相(3) - oculi mathematicae
こちらのエントリを読んで思ったことをすこし。


集合と位相 (大学数学の入門)

集合と位相 (大学数学の入門)

この本の話なのですが、

包含写像  \empty \to Y が定値写像であるための条件は、Y空集合ではないことである。

という文章が紹介されています。ぼくはこれを読んで、ちょっと考えて、 \empty \to \empty という(ただひとつ存在する)写像は定値写像ではないかと思いました。なぜなら、

 f : X \to Yが定値写像であるとは、すべてのx_1,x_2 \in Xに対して、f(x_1)=f(x_2)が成り立つことをいう。

と思っていたためです。この定義によれば、X=\emptyであれば、すべての〜〜というところで元がそもそもとれないので、自動的に条件が成り立ち、fは定値写像となります。


ところが、本には上の文章の前にこうあります。

c \in Yとする。すべての元x \in Xc \in Yにうつす写像を定値写像(constant mapping)とよぶ。

この定義によれば、Y = \emptyのとき、Yから元をとることができず、自動的にfは定値写像ではないことになります。
こういうふうに、ほとんど同値な二つの定義であっても、空集合という極端な場合を考えると差が生じるということはしばしばあるわけです。じつに怖い存在です。


ちなみに、定値写像研究会によれば、

集合Xから集合Yへの写像でその像が単元集合となるものを定値写像と呼ぶ。

という定義がなされていて、本の定義と一致しています。このページに並んでいる命題を見ると、いちいち「空でない」が書かれていて、空集合の闇の深さを感じました。自明数学研究会のなかで「空集合研究会」のページだけ作られていないということからも、やはり空集合は難しいんだろうかという印象を受けます。